皆様におかれましては、つらい痛みや気持ちのつらさなどの諸症状に対して、様々な負担を抱えながら毎日をお過ごしのことと推察致します。
われわれのグループでは、難治性のがんの痛みの患者さんに、よりよい治療を提供するための臨床試験を実施しております。
難治性のがんの痛みの代表的な症状として神経障害による痛みがあります。神経障害による痛みの治療には、薬物治療として、オピオイドのほかに、鎮痛補助薬(抗うつ薬、抗けいれん薬など)と呼ばれる特殊な痛み止めが有効であることが知られており、ガイドラインにも記載されておりますが、いずれも根拠となる研究が不十分であり、エビデンス(科学的な根拠)が十分とは言えません。症状をやわらげるためにはさらなる研究により、痛みの治療の標準化が必要と考えます。
このようにがん患者さんの神経障害による痛みに対して、標準治療(科学的根拠に基づいた観点で、現在利用できる最良の治療であることが示され、ある状態の一般的な患者さんに行われることが推奨される治療)を策定すべく、有効と考えられる2薬剤による本試験を計画致しました。
本臨床試験により、患者さんには少しでも痛みの軽くなる生活を体験していただきつつ、未来の痛みの治療の標準化にもご協力いただければと思っております。

国立がん研究センター中央病院
緩和ケアチーム / 精神腫瘍科 科長
オピオイド不応性がん関連神経障害性疼痛を対象に
14日間のデュロキセチンの有効性および安全性を
プレガバリンと比較する
国際多施設共同二重盲検用量漸増 第III相ランダム化比較試験
International, multi-centre, double-blind, dose increment, parallel-arm, randomised controlled of duloxetine versus pregabalin over 14 days for opioid unresponsive cancer-related neuropathic pain
国立がん研究センター中央病院
緩和ケアチーム / 精神腫瘍科 科長
奈良県生まれ。奈良県立医科大学卒業。麻酔科・ペインクリニック、心療内科、緩和ケア科、腫瘍内科等で11年研修後、近畿大学病院心療内科・緩和ケア科医局長、同講師(緩和ケアセンター)、University Technology Sydney, The Palliative Care Clinical Studies Collaborative(PaCCSC),Visiting Professor、近畿大学医学部心療内科准教授を経て現職。緩和医療専門医、心療内科専門医、精神腫瘍医
がん疼痛を有する患者のうち33%が神経障害性疼痛(Neuropathic Pain: NP)を有している。神経障害性疼痛は難治性でオピオイドへの反応性も良くない。このため鎮痛補助薬(本来は痛みの治療薬として開発された薬剤ではありませんが、痛みの治療に用いられる薬剤の総称です。例.抗うつ薬や抗痙攣薬など)を使用することが多い。中でもガバペンチノイド(ガバペンチン、プレガバリン)抗痙攣薬の有効性が2つのRCTで示されており、みなし標準治療として考えられている。デュロキセチンはセロトニンとノルアドレナリンの両者にバランスよく強力に再取り込みを阻害する抗うつ薬(Serotonin Noradrenalin Reuptake Inhibitor: SNRI)で、オピオイドに反応性の悪いがん由来の神経障害性疼痛(Cancer-related Neuropathic Pain: CNP)の疼痛軽減に可能性のある薬剤である。しかし、初回治療としてのデュロキセチンの有用性を示した研究は過去にない。両薬剤(ガバペンチノイド、デュロキセチン)ともにCNPへの有効性が示唆されているが、実際の臨床的な効果/副作用を直接比較した研究はない。CNPを対象として、デュロキセチンの効果をみた研究は、これまでにほとんど存在しないが、我々の研究グループでは、オピオイドとガバペンチノイド治療に反応しないCNPに対して、2次治療としてのデュロキセチンの上乗せ効果をみたプラセボ対照ランダム化比較試験を実施し、NNT(ある介入を対象者に実施した場合、1人に効果が現れるまでに何人の治療が必要であるかを表す数字:少ないほど良好な薬剤である)=3.4(三環系抗うつ薬と同等。通常の鎮痛補助薬は7-8程度である)と良好な結果を示している。また、2015年のThe Lancet Neurologyによると、非がんの神経障害性疼痛に対するNNTはデュロキセチンがガバペンチノイド(プレガバリンやガバペンチン)よりも優れていた。
プレガバリンとデュロキセチンの二重盲検無作為化比較試験により、オピオイド不応性CNPの薬理学的治療のエビデンスを高めること
主要な目的
治療前 24 時間の最悪の疼痛強度 4 以上および LANSS スケール(LANSS)12 以上の CNP に対して、デュロキセチンの正味の臨床効果(有益および害)の差異をプレガバリンと比較する。
がん由来の神経障害性疼痛
| ・ | がんおよび神経障害性疼痛の診断がつく入院患者および外来患者 |
| ・ | 18歳以上(日本は20歳以上) |
| ・ | KPS 50以上 |
| ・ | 研究の評価項目を完了することが可能で、試験手順に従うことができる |
| ・ | 情報に基づく書面による同意を提供する能力 |
| ・ | 過去24時間のBPI項目3(最悪疼痛強度)スコアが4以上のがんに関連する疼痛 |
| ・ | LANSS 12以上 の神経障害性疼痛 |
| ・ | 適切な用量(最大許容用量までのタイトレーションまたは、特に禁忌でない限りは、最低60mg/日の経口モルヒネ換算相当用量を投与されている事と定義する)のオピオイド薬が投与されている |
| ・ | 定期鎮痛薬(オピオイド、パラセタモール、非ステロイド性抗炎症薬)および全ての鎮痛補助薬(抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整脈薬、N-メチル-D-アスパラギン酸受容体拮抗薬、ステロイドなど)が、研究を開始する72時間前までに安定していること |
| ・ | 化学療法誘発末梢神経障害(手袋靴下型で判断する) |
| ・ | 脊髄圧迫 |
| ・ | デュロキセチンまたはプレガバリンの禁忌 |
| ・ | 2週間以内に何らかの理由でガバペンチノイドまたはデュロキセチンを服用している。 |
| ・ | 何らかの理由でSSRIまたはSNRIを内服している。 |
| ・ | 登録4週間前に新しい抗がん剤の臨床試験に参加した参加者 |
| ・ | 研究結果の信頼性に影響を与える臨床的に有意な認知障害を有する患者(臨床医が判断する) |
| ・ | 最近の薬物乱用の病歴を有する患者 |
| ・ | 妊娠中、授乳中、または妊娠している可能性のある患者 |
| ・ | 研究者が研究に参加することが不適切であると判断した患者 |
| ・ | ベースラインの14日以内に新規化学療法が開始された患者(ホルモン剤、ビスフォスフォネート、長期免疫療法、分子標的薬は許可する) |
| ・ | GFR-EPIの式に従って算出したeGFR 30ml/min/1.73m2と定義される腎不全患者 |
| ・ | 肝不全の患者(Child Pugh BまたはC) |
Day14の最悪の疼痛強度(BPI項目3)の比較
| ・ | 14日目および21日目の平均疼痛強度(BPI項目5) |
| ・ | 21日目の最悪の疼痛強度(BPI項目3) |
| ・ | Short form McGill Pain Questionnaire 2(SF-MPQ-2スコア) |
| ・ | EORTC QLQ-C15-PAL |
| ・ | HADS |
| ・ | 毎日のオピオイド投与量(それぞれの日) |
| ・ | 毒性評価(NCI CTCAE;悪心、軽度、眠気、浮腫/PRO CTCAE) |
| ・ | Day3、7、14でのベースラインからBPI項目3が、1ポイント、2ポイント、2ポイント以上の減少、また30%と50%以上の痛みの軽減が得られた参加者の割合 |
| ・ | 最大用量まで増加できた参加者の割合 |
| ・ | 各段階で痛みをコントロールできる参加者の割合 |
| ・ | 個人的な痛みの目標を達成できる参加者の割合 |
| ・ | ベースラインのオピオイドと鎮痛補助薬を調整する必要のある参加者の割合 |
| ・ | 試験完遂率 |
| ・ | 鎮痛補助薬の合計使用量(それぞれの日) |
| ・ | 介入(毒性)との関係の可能性のある有害事象を、前向きに探求する。 |
| ・ | 保健サービス利用-予定、予定外の受診、調査、入院 |
サインバルタカプセル®(塩野義/日本イーライリリー) 30mg
リリカ®(ファイザー/エーザイ)25㎎,75㎎
[最終更新日]2021年 3月 8日
オピオイド不応性がん関連神経障害性疼痛を対象に
14日間のデュロキセチンの有効性および安全性をプレガバリンと比較する
国際多施設共同二重盲検用量漸増 第III相ランダム化比較試験
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